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2014-05

「さわらびの譜」 葉室麟


さわらびの譜 (単行本)さわらびの譜 (単行本)
(2013/10/01)
葉室 麟

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【出版社・著者からの紹介文】
扇野藩の重臣、有川家の長女・伊也は、藩の弓上手、樋口清四郎を負かすほどの腕前。競い合ううち清四郎に惹かれる伊也だったが、妹の初音に清四郎との縁談が。くすぶる藩の派閥争いが彼らを巻き込む。長編時代小説。

【読んだ感想】
この作者が描く女性像は、男性が主役として描かれている物語でも決して添え物の登場人物ではなく、主人公の生き様に必ず何らかの影響を与える一本筋の通った人物として描かれることが多い様に感じる。本作の主人公(女性)伊也もなかなかのモノ。この時代に、女性伊達らに弓の名手として修練に励み、藩の重臣であり父は愚か、其の周りの重鎮勢にも物怖じせぬ言動は、現代社会に生きる自分ですら「出すぎた真似を...」と思う程なので、実際に彼女が存在していたとしたら、藩の重臣にとっても、各所にとっても、なかなかに厄介な女子だったのではないだろうか。

それでも、彼女を取り巻く周りの大人衆のなんとも芯の通った事だろうか。こんなにも物分かりの良い大人がこの世の中に溢れていてくれていたら何と良いのに、という位の良心の塊揃い。それが、本当の武士の心というモノなのかもしれないけれど、野望と政治が渦巻く藩内で女性(というか小娘)にこれだけやりたい放題させるのは実際に可能だったのだろうか。

とにかく、父親が素敵だ。
時に頑固爺ではあるが基本娘に甘い。(笑)しかし、物事の本質を見抜き、先見の明に長けている。多くを語らないけど、常に真実を見据えようとし、人を信じる。でも、時々先走っちゃって失敗してしまう。人間らしい弱さもきちんと兼ね備えた、責任感に強い、イイ親父なのだ。珍しく、母親の印象が薄いのは、姉妹の関係を中心に描いているからかな?だとすれば、この姉妹は共に父親からいいところをしっかりと受け継いでいる。

決して貶しているのではなく、褒めているのだ。
紆余曲折を経てはいるが、それでもこの時代に、ここまで小気味良く若い女性が信念を貫いて生きて居るのを読むのは非常に心地よい。芯の通った、心の強い殿方が大好物だが、オトコマエな女子もやはり大好物なのだ、私は。

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「Burn. -バーン-」 加藤シゲアキ


Burn.‐バーン‐ (単行本)Burn.‐バーン‐ (単行本)
(2014/03/21)
加藤 シゲアキ

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【出版社・著者からの紹介文】
機械のようにさめきった天才子役・レイジが出会ったのは、魔法使いのようなホームレスと愛に満ちた気さくなドラッグクイーン。人生を謳歌する彼らに触れ、レイジは人間らしい心を取り戻し、いつしか家族のようにお互いを慈しむようになる。だが幸せな時は無慈悲で冷酷な力によって破られ、レイジはただひとつの居場所であった宮下公園から引き離されてしまう―家族、愛の意味を問う、熱情溢れる青春小説!

【読んだ感想】
「ピンクとグレー」(感想はこちら)、「閃光スクランブル」(感想はこちら)に続く、加藤シゲアキの「渋谷サーガ」第三弾。今回の Burn.で渋谷サーガは最終章という話を聞いたので、どんな風に持ってくるかな?と期待。

今回の一冊は、特に人の描き方が上手い。
文中で起こる様々な事件や出来事の描写がちょっと中弛み感があって、途中で流し読みしそうになった場面も幾つかあるのだけど、登場人物一人一人が、様々な伏線を経て登場しているので、過去・現在・その後の話にもきちんと絡んで来るのが興味を持続させる。誰一人として「花を添える」だけの登場人物ではなく、主人公・レイジの人生を大なり小なり変えるきっかけを作っていたり、「あの時あそこに居たのか!」みたいな驚きが随所に散りばめられている。

自分の居る世界の中で常に存在する「嘘」に「本当」の事さえ見失ってしまって、冷め切った心を抱えていた天才子役・レイジがふとしたきっかけで知り合ったホームレスの徳さんと愉快な仲間たち(って描写するのが一番ピッタリ来る)との関係で、子供らしい心を取り戻す...かのように描かれているが、私は「レイジは本当はどんどんと色々な物を見失っていたのではないか?」と感じる。

日々のルーティーンに行き詰まった子供にとって、親や周りの大人に対し猜疑心を抱き始めた子供にとって、不思議な雰囲気を持つホームレスやドラッグ・クィーンは新鮮だ。彼らの人懐っこさや、外見や立場で人を差別しない心意気は、虚像の中で生き続けてきた「心」には、暖かいものに映るに違いない。新しい出会いで新しい発見があり、自分を否定しない居場所を作ってくれる彼らにレイジが興味を持ち、心を開くのは当然な事に映る。

別に「今までの居場所」は自分に必要ない。大して重要な事ではない。

そう、思うようになって当然だと思う。
ただ、ホームレスの徳さんは「楽な生き方を推奨」していたのではなく、いつでも「魂を燃やして生きる」事をレイジに伝えていた。自分の生き方や歩き方で。

「お前も、魂燃やせよ。」
という、ホームレスの徳さんの言葉がこの小説のタイトル「Burn. -バーン-」になっているんだろう。実際に10代の若い時期から芸能界に身を置く著者に、実はこの作品が一番近いのでは無いか?とふと思う。レイジと同じような孤独を、冷ややかな感情を、「嘘」に翻弄されそうになる自分に焦りを感じながら生きていたんだろうか。

人は何歳になっても、何をしていても、過去に何があっても、新しい何かを見つける事で「興味」を得る。「興味」を得た心はエンジンを点火させて「次に進む原動力」を作り出す。後押しされる「人」は何かを生み出そうとそる。必死になって。それが「魂を燃やす」ということなのでは無いだろうか。

彼の作品は、1つを読み終わる度に「次の作品では何を持ってくるかな?」と、そう期待させられる。それも私を「読書」に駆り立てる「原動力」になる。内容よりも「次の作品ではどんな人物が生きるのだろう」と、そう思わせられる。そして、前作をもう一度読み直したくなる。なかなかに実力派であると、私は思う。
(2014年3月30日 読了)

「潮鳴り」 葉室麟


潮鳴り潮鳴り
(2013/10/29)
葉室麟

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【出版社・著者からの紹介文】
俊英と謳われた豊後・羽根藩の伊吹櫂蔵は、狷介さゆえに役目をしくじりお役御免、今や“襤褸蔵”と呼ばれる無頼暮らし。ある日、家督を譲った弟が切腹。遺書から借銀を巡る藩の裏切りが原因と知る。前日、何事かを伝えにきた弟を無下に追い返していた櫂蔵は、死の際まで己を苛む。直後、なぜか藩から弟と同じ新田開発奉行並として出仕を促された櫂蔵は、弟の無念を晴らすべく城に上がる決意を固めるが…。

【読んだ感想】
今年10月に映画が公開になる「蜩ノ記」に続く「豊後・羽根藩」シリーズ第二弾。
(あ、「蜩ノ記」の感想書いてない。笑)

かつては剣豪であり将来を嘱望されていた主人公・櫂蔵が1つの過ちから身を落とし、お役御免となる。人々から蔑まれ、家からも勘当され義母から疎まれる日々。酒と博打に溺れ底辺の暮らしをしている櫂蔵の元に、ある日弟・新五郎が「必要に迫られ家財を売ってお金に替えた」と三両を届けに来る。家財を売って得たお金はもっと有るはずなのに、自分には数両渡せば良いと思っているのかと怒りを露わにし、弟をあしらって家に返した櫂蔵に翌日届いたのは新五郎切腹にて自害の知らせだった。

そこから、弟の死、家族との確執、新しいお勤め場での人との悶着、陰謀、金。
櫂蔵が直面する問題は、今の企業で見られる問題となんらかわりは無い。男に裏切られ捨てられた女、家族を蔑ろにして仕事に没頭する父親、家族の確執に耐え切れず家を飛び出す長男。

櫂蔵の躍進劇は、なんとなく「それは都合良すぎないか?」って感じも有るし、葉室麟の書く主人公は剣豪揃いなのだから、その場面が見たかったなとも思うが、底辺へ落とされても尚、生きるきっかけや再生のチャンスを掴み、顔上げて前に進む姿は痛快でもある。時に男泣きをし、悔しがり、反省してもがいている主人公の姿は、少なくとも周りの心を動かす。

時代劇で悪代官と悪い商売屋が手を組み、悪事の限りを働くのはお約束なのだけど、この作品の中でもなかなかのくそたぬき親父な商売やの主人と、小者のくせに狡賢いお侍が手を組んで至福を肥やしている。出来れば、そこにもっと切り込んで、如何にして風穴を開け、弟の無念を晴らし、悪事を暴いたのか掘り下げてドロドロとしたものを見せてくれたら良かったかも。

とは言え、義理と人情、そして侍の男気を描かせたらやはり上手い。端から端まで登場人物全員が生きている「気」がこの人の話からは常に感じ取れる。まだまだ暫くは、私の中の「葉室麟ブーム」は止まらない。

「ツナグ」 辻村深月


ツナグ (新潮文庫)ツナグ (新潮文庫)
(2012/08/27)
辻村 深月

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【出版社・著者からの紹介文】
一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者」。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員……ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。心の隅々に染み入る感動の連作長編小説。

【読んだ感想】
最近になってやっと読み始め、少しづつハマっている作家・辻村深月作品です。たまたまネットで日本の映画を見ていた時に予告編でこの「ツナグ」を見ました。原作が辻村深月さんだったので早速購入して読み開始。あっという間に読みきれる、相変わらずテンポの良い作品です。

アイドル、母、友人、そして婚約者。
それぞれの「逝ってしまった人」が生きていた時の描写と、亡くなった後の彼らと、残された「会いたいと思っている人」との会話や関係が凄く普通で、だからこそ容易に読者は両者の気持を理解出来る。でも、その気持ちの根底に流れている凄くドロドロした人間の汚い部分や、嫉妬や、エゴや、本当は「自分が一番向き合いたくない自分」を正面につきつけられるので、残された「人」の心の葛藤がまるで自分の心を見られている様な、読みながらそんな気持ちになります。

もし本当に「亡くなってしまった『どうしても会いたい人』にもう一度会える」と言われたら、私なら誰に会うだろうか。それよりも、会おうとするだろうか。残された物の喪失感は大きい。でも、どうあがいたって、どうもがいたって「その人」はもう戻ってこない。その間に惹かれている濃くて太い線を超えてしまっていいんだろうか。って思う。沢山の後悔や悲しみを一段、一段、まるでミルフィーユみたいに重ねて行ってやっと自分の中で消化出来る、人を失う悲しみや喪失感をまた「ふりだしに戻る」にしてしまうんじゃないかな?って思う。

それにしても「アイドル」「母」「婚約者」に関しては、読んだ後に心の中がちょっとほんわりとする暖かい余韻が残るのに、「親友の心得」だけはぐさっと心を抉られるちょっとしたミステリーと人の嫉妬心が招く醜さと、若さの恐ろしさが描かれている。こういうスパイスがあるからこの人の作品は、読み終わった後も「気になる」作品揃いなのだろう。
(2014年4月29日 読了)

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Author:よりたろう
色々な国を渡り歩き回ってカリフォルニアに落ち着いたつもり。でも結局サンフランシスコ⇔ロスを行ったり来たり。生れつきの遊牧民。

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